緊急指令:樹齢90年の東濃檜を確認するべし!

平成21年8月18日(火)午後2時半ごろ、市川市で地熱住宅を建てたN邸に向かう途中、私の携帯電話が鳴った。たまたま運転中であったため、電話に出ずに着信者が誰であるかを確認したところ「小栗理事長」と表示されている。
私が長年お世話になっている「恵北プレカット工場/小栗理事長」からの電話だった。

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普段であれば、すぐにコンビニに車をとめて、小栗理事長にかけなおすのだが・・・、その時は、何か嫌な予感があり・・・、かけ直さなかったのだ。
5時ごろ、N邸での作業が終わり、車に戻って携帯電話を確認すると、そこには、またまた小栗理事長からの着信があった。しかも、たびたび・・・。

嫌な予感(悪寒に近いのか・・・?)はするものの、これはかけ直さないわけにはいかないようだ。
しかし、この1本の電話によって、私はトンデモナイ世界に引きずり込まれることになる。

「こんにちは。今日は玉川さんにとって非常に喜ばしいニュースがあるのですが!」

「・・・はい。なんですか?」

「エコホームズのお客さんは東濃檜が好きですよね?」

「そうですね。みなさん、とても檜を愛していますね。私も好きですけど・・・。それが何か・・・?」

「恵北プレカットで出している東濃檜の柱はだいたい樹齢70年なのはご存じですよね?」

「はい。それは父からも耳にタコができるくらい聞かされていますから。知ってますけど。」

「エコホームズさんのお客さんは【樹齢90年の東濃檜】であれば、もっと喜んでいただけますか?」

「それはもちろんイエスですね。しかし、以前 小栗さんから聞いた話では樹齢90年を超える檜はほとんど流通していないという話でしたが・・・」

「だからグッドニュースなんですけど、詳しい話は山に入ってから聞きたいですか?」

「・・・、ちょっと意味がわかりませんが??? 私が山に入ると何か良いことがあるのですか?」

「あります、ありますとも。詳しい話は、私と一緒に山に入ってから説明させていただきますが、興味ありますか?」

実は、最近 私は特に忙しくなっていた。岩手県での「寒冷地向け地中熱利用システムの開発」や「韓国での地熱住宅の建築」などなど、9月上旬は打ち合わせがたくさんあるのだ。

「いやぁ~、興味はあるのですが、9月に入ると忙しくなりまして・・・」

「それなら、8月31日はどうですか? 空いてますか?」

「・・・はい。」


翌日、あすみ住宅研究会/清長氏から携帯に電話が入った。

「こんにちは。清長です。小栗さんから聞いたと思いますが、8月31日11時に仲建設さんの事務所で集合ということになりました。」
*注:仲建設さんは名古屋地区で地熱住宅を建てている仲間であり、さらに、あすみ住宅研究会にも参加している東濃檜仲間でもある。

「・・・えっ? 11時ですか? ちょっと早すぎるのでは・・・」

「とにかく、そのように決まりましたので。交通費は出しますが、宿泊費はでませんので。よろしく」

8月30日は断熱改修工事をおこなったお施主様の御引渡日でもあり、忙しい日なのでとても前泊はできない。そうなると、朝 自宅を出発するのが6時ごろか・・・。清長氏は私がどこに住んでいるのか知っているのだろうか・・・?(知っているはずだが)

8月31日 10:50ごろ、仲建設に到着すると、そこには笑顔の清長氏が堀尾社長(仲建設代表取締役)と一緒にお茶を飲んでいた。

「ようやく着きましたね。それでは堀尾社長の車に乗って、これから恵那までいきましょう!」

名古屋から車で1.5時間、恵那駅に到着すると、そこにはすでに小栗理事長と窪田社長(窪田建設代表取締役)が待っていた。そこからさらに車で移動し、「恵那市岩村振興事務所」に到着。すでに13:30を過ぎている。早朝5時に起きた私には車の振動が心地よい。ここに至るまで、今回の目的について詳しい説明を受けていない。これから何が始まるのか・・・?

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そこには、恵南森林組合の人達、そして岐阜県森林組合連合会 東濃支所/川辺所長、さらに岐阜県恵那農林事務所の方達が勢ぞろいしていたのだ。(川辺所長は「我が家の大黒柱と出会う旅」において、いつも東濃檜の解説をしていただいております。大変お世話になっている方です)

ここで今回の目的について簡単に説明があった。しかし・・・、川辺所長の話では、

「まずは山に入りましょう。詳しい話はそれからということで・・・」

そして、いきなり山に向かったのだ。向かった山は「小沢山地区」だ(↓)
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だんだん道が細くなってきて、そのため、途中で車を降りた一行が目撃したものは!
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ここは、岐阜県恵那市/水野家が代々守ってきた東濃檜の森だ!(と説明を受けました)
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恵南森林組合の話では、この森は大正6~8年ごろに、水野家のひい御爺ちゃんが植林したもので、水野家が代々守り育ててきたのであるが、国産材に関するいろいろな事情があり、近年はほとんど放置されている森らしい。
大正6年(1917年)というと、第一次世界大戦中である。
そんな昔に、水野家当主が子孫のために植林した檜の森なのだ!

樹齢90年と言われても、ちょっとピ~ンとこないので、試しに1本伐採してもらったところ・・・

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切株の年輪を見てビックリ!!!
*画像をクリックすると拡大表示されます。ぜひ、拡大してご覧ください!!!
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「芯のところをみると、こりゃぁ~天然林の檜にちかいな。植林した時に肥料をやらなかったのか・・・」
誰かがつぶやいていました。
もう一度、年輪をじっくりとご覧になってください。芯の部分も年輪が細かいですよね。
実は、一般的には、檜を植林する際、最初は生育を確保するため肥料をやるのだそうです。そのため、一般に流通している東濃檜では、芯の部分の年輪はもっと幅がふといそうです。

この樹齢90年の森をあとにして、「恵南森林組合」で詳しい話をお聞きすることになりました。

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そして、「恵南森林組合」の方達から驚愕の事実を聞かされてしまったのです。その内容を簡単にまとめると;

①各種のコストを考慮すると、実は、樹齢40~50年程度の東濃檜が最も流通している。

②水野家の樹齢90年の森は生育条件が悪かったのか、90年も経っているのに、4寸角(12センチ角)~5寸角(15センチ角)の材料をとるのが精一杯(つまり、一般的に流通している東濃檜材に比べると、年輪が細かすぎるため)。

③樹齢90年を超えるような森は、伐採も困難な場所にあることが多いので、労多くして儲からないため、ほとんどが放置されている。

のだそうです。つまり、コストが高くつく樹齢90年の森の檜を流通させるよりも、樹齢40~50年程度の檜を伐採/流通させた方が利益が確保できるそうです。
そして、この事実を最も悲しく思っているのが山側の人達なのだそうです。

「樹齢50年程度の檜と90年を超える檜の値段が同じなのは、何かオカシイと思いませんか? しかし、残念ながら、それが国産材の現実でもあるのです」

「流通価格が同じであるなら、伐採しやすい山に入ってしまいます。そのため、この地区には樹齢90年を超える美しい森がたくさん手つかずで残っています・・・、本当に悲しいです」

岐阜県の職員の方も悲しそうでした。しかし、これが国産材に関する事実なのでしょう。

川辺所長が突然立ち上がって叫びました!
「木は樹齢だ!」
(その意味は、木材の価値は樹齢によって決まるべきだ。木の強度は樹齢によって決まるから)


「小栗さん、樹齢90年の檜も素晴らしかったですが、それよりも、もっと貴重な話を聞くことができました。今日は参加させていただきましてありがとうございます」

「玉川さん、そこなんですよ。山側の人達も現状を嘆いているだけではなく、【俺たちがなんとかしなくては!】と立ち上がっています。彼らの心意気を無駄にしないためにも、なんとかこの樹齢90年の森をお客さんに提供できないでしょうか!」


こうして、岐阜県恵那市で代々守り育てられてきた「美しい檜の森」を全国に供給するプロジェクトがスタートしたのだ!

(続く)